柞蚕糸のお話し
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「絹糸」って一概に言っても種類がいろいろあるんです。
「お肉」の中に「牛肉」「豚肉」「鶏肉」があるように、、、
今日は野蚕糸の代表として「柞蚕糸」についていろいろと書いてみたいと思いま~ちゅ。
■絹糸の分類
大きく分けると桑の葉を食べる蚕が作った絹(家蚕糸)、桑以外の
葉(クヌギ、カシワ、クリ、トチ、ブナなど)を食べる蚕が作った
絹(野蚕糸)があり、どちらも絹糸と呼ばれています。
■野蚕糸の特徴
野蚕糸は、蛋白質から成る絹とは言っても家蚕糸とは異なる組成と構造であるため性質は全く異なります。引張り強度や弾性に劣る、
しなやかさも劣る、加熱による縮みがある、節も多い、抱合不良も
多い※、糸むらも大きい、など綺麗な糸、しなやかな糸としての品質としては家蚕糸の方が圧倒的に上なんです。
また染料の吸収が悪く、堅牢度も悪い(染料の安定性)特徴もあります。
※堅牢度(@けんろうど)=一般的に言われる色落ち度合い。日光、摩擦、耐水などがある。
しかし天然素材がブームの現在では、家蚕糸にない素朴さ、糸の堅
さ、軽さ、染色時の斑、独特の光沢、などの特徴が、品質の悪さ上
での野蚕絹の野生味に富んだナチュラル感として逆に注目される人気のある糸なんです。
※抱合(@ほうごう)=製糸にした時に繊維の引っ付き度が弱く糸と糸がはがれやす。
■野蚕糸の現状
流通量の多さ&安定性という面で柞蚕糸(タッサー絹)と言えば、
野蚕糸の代名詞のようになっていますが、他にも天蚕糸(山繭)、
エリ蚕糸(ヒマ蚕糸)、ムガー蚕糸などがあるんです。
(でも実際に日本で日常多く流通している糸は野蚕糸の中でも柞蚕糸ぐらいです)
柞蚕糸はインドのヒマラヤ地方が原産ですが、インド柞蚕糸と中国柞蚕糸があります。
そして現在日本で流通している柞蚕糸のほとん
どは中国産なんです。
野蚕糸の製造工程における難点は、飼料のクヌギやカシワなどの樹木で屋外飼育されるため、病虫害や天候の影響も受けやすく、鳥類
の食害もあり、作柄が不安定で生産性に低い事です。
■野蚕糸の構成
野蚕糸も家蚕糸と同様に蛋白質(たんぱくしつ)から構成され、フィブロインとセリシンの二重構造から成っていますが、構成してい
るアミノ酸組成は、家蚕糸はグリシンが多いのに比べ、野蚕糸はアラニンが主体となっています。(お恥ずかしいながら詳しくは僕も良く解りません)
(野蚕糸は家蚕糸よりも灰分とか不純物が多く含まれていてます)
また野蚕糸のセリシンは、石灰分、タンニン分、樹脂分、などを多く含んでいるためアルカリ液に溶解しにくい特徴も持っています。
だから野蚕糸は家蚕糸よりも精練をするのが難しいんです!
西陣でも柞蚕糸はすべて酵素精練されています。
またセリシンの割合も少なく精練したときの目方の減りは家蚕糸が約75%になるのに対して野蚕糸は85~90%にしかなりません。
■野蚕糸の精練に関する注意
上記に精練しにくいと書きましたが、もしどうしてもしたいというわがままな方?は、以下の方法にご注意して下さいねっ。
家蚕糸の一般的な精練方法で、時間を長くするか、何度も繰り返し
精練するか、薬剤を増やして強アルカリで行う。どちらにしても糸が悪くなりやすいので、野蚕糸の精練では、野蚕糸特有の光沢がな
くなったり、精練斑を起こしやすく染め斑が出やすくなるので、注意が必要なんです。
(出来ればプロに任せていただいた方が良いとは思いますよ~)
■「天蚕糸」(わたしにとっても特殊な存在)
「天蚕糸」という名前を知っているみなさんは、価格が高いというだけで凄く良い糸と思われているみたいですが、上記にも書きましたが分類はあくまでも野蚕糸です。なるほど~。
(希少価値でとんでもない高価な糸になっていますが、、、)
■和装業界での柞蚕糸の存在
上記にも少し書きましたが野蚕糸は、家蚕糸に比べて染色性に劣ります。
しかし最近では反応染料による染色法も見出され鮮明な色相で堅牢染色が可能になってきました。
しかし現在の和装業界、特に堅牢度の必要な着尺では、これまでと同様、機能的に劣るためほとんど使用されておりません。
また高級帯にもほとんど使用されていません。
(作品を作るのは問題ないのですが製品・商品をつくるという面ではまだまだ色々あるんです)
野蚕糸はまぎれも無く同じ絹糸の仲間で、ニットなどまだまだ多くの方に人気もありますし、特殊な素材として喜んでお使い頂いております。
もちろん当方も今後も販売していきたいと思います。
野蚕糸好きの方にとっては少し気分が悪い事を沢山書いたかもしれませんがお許し下さい。
※これらは2001年5月19日に西陣の糸屋が発行したメールマガジンを変更した内容です。
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最終更新日2012年2月
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